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紹介
基本情報
アトラク=ナクアは1997年にアリスソフトから発売された商業エロゲでファンディスクの『アリスの館4・5・6』に収録された作品で、2000年に単独でも発売された。
シナリオはふみゃ、原画はおにぎりくん。
公式ジャンルはノベルアドベンチャー。
購入時期や事前情報
2023年3月にファンディスク収録版を、2024年5月に単品版を購入した。前者はwindows10では一枚絵が表示されなかったため、より後に発売された単品版を購入した。後者は最後までwindows10でも問題なく作動します。
最初に本作を知ったきっかけはもう忘れたが、思い当たる節は二つあり、一つはyoutubeで本作のgoing onという曲を耳にしたことで、もう一つは、一時期クトゥルフ神話TRPGにハマった際にいろいろと調べ、エロゲ関連で本作が出てきたことだ。
事前情報として、本作はビジュアルノベルの名作で、それなりに人気のある百合作品ということだ。また、主人公初音のビジュアルはオタク界隈に大きな影響を与えているとか。
おすすめポイント
エロゲ界隈随一の文章力を誇る本作。
そしてその文章力で構築される世界観と主人公初音のキャラクター。
お姉様好きや読ませる文章に魅力を感じる方にはぜひおすすめしたい。
ほかのなんちゃってノベルに爪の垢を煎じて飲ませたいぜ。
リンク
DL版なし
公式紹介
主人公・初音は、宿敵との戦いで深手を負った女郎蜘蛛。
いつか来る再戦の時に備えて、傷を癒し、ちからを蓄えなくてはならない。
初音のちからの源は人間の血肉と精気である。
初音は贄を求めて山を降り、とある学校に結界を張って潜り込む事にした。
感想
ストーリー
冒頭の演出、音楽、文章で一気に引き込まれたし、本作が凡作でないこともすぐに分かった。和風かつ退廃的で、決して明るい展開を連想させないBGM。簡潔かつ修辞的な語り部に初音の古風な言い回し。世界観とキャラクターを丁寧に作り上げている作品だと分かる。
掴みどころのなく、優雅で飄々とした初音が獲物を追い込む姿が見ていて愉快な気分になれる。
また、本作は章立てだが、それぞれの章にキャラクターの名前が使われている。初音が標的とする者の名である。中盤以降、章題が表示されるだけで初音がどのようにして彼or彼女を手中に収めるか妄想してしまうようになる。
私は本作を百合作品として認識していたが、やればやるほどそうではないように感じる。
奏子と和久の章を見れば一目瞭然だろうが、初音と奏子の関係はもちろん対等ではない。初音は平気で「浮気」をするし、奏子を放置する。一方で奏子も若い上、愛というものを知らずに育ってきたのもあって、初音に対する気持ちをはっきりと理解していないようにも見える。現実逃避のために目の前に現れた圧倒的な力を持つ初音に身を委ねたいだけだろう。
初音や奏子の掘り下げを知れば知るほど、二人が相手を必要としていることがわかる。どちらかというと初音のほうが必要としているかもだが。それは決して伴侶としてのそれではない。
奏子の若さゆえの青臭い行動や二人が裸で横たわって話をするシーンも印象的でそれはそれでいいが、百合作品を期待する者は肩透かしを食らうでしょう。
キャラクター
・初音
お姉さまキャラゆえに、矜持が求められる。下手を打つところを見せてはいけないのだ。ゆえに、初音が終盤で「銀ええええええ」と言ったところに少し違和感を覚えた。超然とした彼女になぜそこまでの怒りを抱かせることができようか。銀の正体を知ってから納得したけどね。
初音は善悪の境界線がはっきりとしなく、これは永年生きた化け物にある倫理観の欠如でしょう。唯一奏子との関係性の中に彼女の人間だった部分を見出せる。
・奏子
気弱で自分の意見を話せないキャラだが、自分のビデオを見て脅迫してきた宇都宮にカッターを振り回すシーンで、この子の危険性に気付いた。
親のネグレクトやレイプなどで破滅願望を持っているだろうし、もう彼女が普通に戻るのは難しいだろうし、十代の記憶を一生背負っていくだろうし、それに気づいて初音に一生ついていこうとしたのでしょう。
・沙千保
病弱キャラ。初音に狙われたのが運の尽き。堕ちた後はエロ要員。
・鷹弘
かわいそうだねえ。沙千保とつぐみの状態にかかわらず、鷹弘の章は清々しい気持ちになれる。
・美由紀
ワイやったらこっち選ぶけどね。おっぱいがデカいから。もっと登場してほしかった。
・つぐみ
中学にこんな奴いたなってキャラ。猪口みたいなのはいなかったけど。かわいそうだった。報われないね。
・和久
実はこういうやつあんま好きじゃない。奏子はこういうのと相性よさそうだけどね。和久がいつか奏子を振るかもしれないと考えるとね。奏子闇落ちするやろな。
・燐
なんか見覚えあるなと思ったら、らき☆すたのひよりだったわ。不憫要員。
・銀
やな奴だった。初音の上位互換だと考えれば納得するが。
エンディング
各章での選択により各キャラの状態に変化が生じるが、これは中盤の展開に影響を与えるものの、終章はキャラの状態にかかわらず、一種類しかない。最も、ある時点になれば、全員が初音の手に落ちるからである。
また、一応終章に入る前にエンディングを迎えるルートがある。終章に入る前に、奏子が和久とくっつく場合、初音は駆け落ち(?)した二人を殺して、自分もこの世に未練がなくなり銀に殺されるというエンディングがある。
銀への恨みよりも、奏子とのつながりのほうが大事なのかと。奏子にそこまでの情を感じるいるのかと疑問に思うところも正直ある。自分と重ねてるところもあって、銀にも奏子にも裏切られるショックも大きいでしょう。
神話に出てくるような神々は力があるため、人間を翻弄することがあっても、翻弄されることがないでしょうし、それで吹っ切れたのかもね。
銀と初音の関係は言うまでもなく、初音と奏子のそれとほとんど重なるでしょう。初音が意図的にそうしているでしょうし、意図せずともそうなってしまうでしょう。
奏子は初音にとっての精神的な最低限のラインでしょうね。呼べば奏子が来ると分かっているからこそ、他の人間に手を出す余裕があるでしょう。その奏子が勝手に和久と駆け落ちすれば初音も自分自身の人間的な部分に疑問を持つでしょう。そこが初音と銀の違いでしょう。
上記したように、やはり百合というよりかは親子のような関係でしょう。
銀が僧であり人間であるというミスリードが解かれるのと共に、終章へ入るときにgoing onが流れる演出は鳥肌が立った。それまで何気なく見ていた章題が反転する演出からもなんだか趣を感じた。
ホコロビの章と終章は一気に読んだが、圧巻だった。序盤に感じた衝撃が再び。
音楽、文章力、演出がまた一斉に物語を最高潮に持ち上げた。
エロシーン&CG
絵に関しては良くも悪くもなく、ただ、キャラデザは結構好き。
エロシーンはシナリオゲである上に、古い作品であるため、実用性はない。しかし、初音というキャラがよく出来ているので、日常シーンの延長として、獲物にとどめを刺す行為として、彼女が他の人間を嬲るシーンは見ていて面白かった。
音楽
本作のBGMは雰囲気を醸し出すため、世界観を作り出すに十分な役割を果たしたと感じた。
序盤で流れたRed tintとRunning Cloudsで一気に本作の雰囲気が感じ取れたし、終盤のGoing onも印象に残った。終章でそれまで出なかったBGMの畳みかけも盛り上がりに拍車をかけた。
まとめ
これがファンディスクに収録された一作だそうです。さすが天下のアリスソフト。
優れた、文章力、音楽、演出で表現された本作は、ノベルゲームとしては非の打ち所がない。